『源氏物語、<あこがれ>の輝き』③

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この本で特に優れているのが、紫の上への考察です。
北山は現在の金閣寺が建っているところで、鎌倉時代から室町時代始めには『源氏物語』に擬えた
テーマパークが造られました。

北山で発見された彼女はまだあどけないばかりの少女で、聡明ではあったものの、無垢そのものでした。
そして、源氏によって攫われた彼女は世間に曝されることなく無垢のまま生きたのです。

イノセンス―ということが彼女の特徴で、死んだその姿でも垣間見た夕霧によってその無垢の様子が語られています。
イノセンス、そのことが彼女の不幸そのもので、死の床での彼女は「女の不幸」を吐露します。

―この世に幽閉されている―

その言葉が最もよく紫の上を表現していると思われます。
天上人のかぐや姫のように帰る家のなかった紫の上は、源氏だけを信じて生きてきました。

しかし、源氏の裏切りにより自分がいかに儚い立場にいたのか思い知らされます。
女三の宮の降下の時になって初めて、親の承諾なしに結婚した自分の身分の危うさに気付き、源氏との愛に絶望します。
何も分からず源氏との結婚を承諾した「無垢」こそが彼女の不幸の始まりだったのです。
そして、死せる彼女の姿に「無垢」を表現することで、紫の上の悲劇を強調しているのです。

紫式部はここで、世間を知らない女の悲劇を書いたのかなあ…?なんて思ってしまいます。
ここの件は涙なくして読めなかったです。


他に玉蔓の解説は流浪の姫君の末裔として(実際はこの後の方が増えるんでしょうが)読んだことのある論文をまとめてあります。


そして、宇治の姫君たちの登場となります。