『源氏物語の基底と創造』①

結構、『源氏物語』に対する論文を読むようになって、かなり面白かったのが伊藤博著作の
源氏物語の基底と創造』でした。
難しいことを更に難しく書いているものが多い学術書の中で、まあまあ読み易い方です。
(すごく読み易いとは言わない)

中でも秀逸なのが「薫論序説」を含む薫に対する論評でした。

『宇治十帖』の主役のひとり、薫は光源氏と皇女の間に生まれた貴種(在原業平と同じ)とされていますが、実は大昔に亡くなった前内大臣の嫡男だった貴公子を父として生まれた不義の子です。
彼はかなり幼い時点で自分の出生に秘密があることを知っていました。
(多分、女三宮の女房がバラしたと思われる)

そして、宇治に行ったときに、八宮の女房となっていた元柏木の女房に会って初めて真相を聞かされます。
それはとても悲しい話であったけれど、ずっと思い悩んでいた薫にとっては自分が何者だが分かった感激の方が勝り、その感動を誰かと別ち合いたい思いでいっぱいでした。

そこにいたのが八宮の長女であり、思慮深い大君でした。
「吊り橋効果」とは違うけれど、すごく大きな感動を感じたときに側にいる人に対してもいいイメージが付いてしまう感じでしょうか?
ハイテンションになっている薫の様子が書かれています。

しかし、薫の愛情を受け入れられない大君…。
やがて保護者である父宮を失った大君は、跡を託された薫にとって籠の鳥にも等しい立場に立たされます。
けれども、遊び人の匂宮と違って恋愛に晩生の薫はぐずぐずして大君を死なせてしまいます。

ここまでが「よく分かる…」とかのタイトルの本には書かれている内容です。

続きます。